現代の競技空手は組手も形も、とにかくスピードが大切です。このスピードを出すためにいろいろな方法で鍛えに鍛えまくるわけなんですが、これを知らないと効率が悪いので、記事にします。
筋肉はバネ
これは、素直にイメージできると思います。
バネというのは、いったん縮むことで、弾性力を蓄え、解放された時に一気にその力が発揮されます。逆に言えば、縮まない限りは大きな力が出せないという事です。
つまり、大きな力=スピードを出そうと思ったら、筋肉をいったんは縮めないといけないわけです。
逆に、バネは伸ばせば縮みます。筋肉でも同じです。伸ばせは伸ばすほど、戻る力・速度が早くなります。
余談ですが、「ゴムゴムのー」で有名な主人公の技たちですが、伸ばせば伸ばすほど衝突時のパワーは減衰するので、主人公の力が最も発揮されるのは、思い切り腕を伸ばした手足を超近距離の敵にぶっ放した時となりますね。ちなみにこれは、ばね定数を一定と仮定したときの話です。だから、もし、主人公がバネ定数を操れるなら、バネ定数をめちゃくちゃ高くすれば、ちょっとだけ伸ばせば良いということになります。(ビジュアルが地味すぎて流行らなそう、、、)バネ定数を低くしてめちゃくちゃ伸ばしてから、バネ定数を上げると、ダメージが増すので、相手が隙だらけなら、これもアリですね。
筋肉は反射する
この筋肉が縮んでから伸びるまでの間に、身体の中では反射という現象が起こります。詳しく書くと、例えば、腕を曲げようとしたときには、上腕二頭筋が縮むから始まって、以下のような感じになります。
- 上腕二頭筋が縮む
- 上腕三頭筋が強制的に伸びる
- 上腕三頭筋内の神経(感覚ニューロン)が脊髄に伸びたという情報を伝える
- 情報は脳を経由せず、直接に脊髄前角細胞に働いて、上腕三頭筋が収縮する
お気づきでしょうか?
腕を曲げようとしているのに、上腕三頭筋が反射的に縮んでしまっています。つまり、腕の屈曲を邪魔しているのです。
なんで、こんな非効率な動きが発生するかといえば、筋肉が伸びすぎて切れないための防御機構が必要だからです。
反射の利用
上述の反射を利用した運動パフォーマンスの向上をストレッチ・ショートニングサイクル(SSC:Stretch Shortning Cycle)大切なので2度言います。
ストレッチ・ショートニングサイクル(SSC:Stretch Shortning Cycle)
要するに、
主動作前に予備動作として目的の運動と反対の動きをすると、バネがよく使えるぜ!
って話です。
例えとしてよく出されるのは、ジャンプです。皆さんも是非やってみてください。
高くジャンプすることを目的とします。次のうち、もっともそれが達成しやすい動作はどれでしょうか?
- かがんだ状態からジャンプ
- いったんかがんでジャンプ
- 立ったままジャンプ
正解は2ですよね。
空手への応用
さて、空手の指導においては、突くときに手を後ろに下げてはいけないと指導されます。子供の時から、「相手に打つことを気づかれてしまうから」などというもっともらしい教えは常々疑問でした。皆さんはいかがでしょうか?
SSCを知ると、「身体の前進により手が後方に残るので、意識的に手を後方に引いたりせずにタメを作る」が正しい伝え方なのではないかと思います。もちろん、相手に気づかれないことは大事なのですが、回避不可能な場面では気づかれてもいいわけで、そうであるなら、パワー・スピードが出やすい動作をするほうが理に適っています。でも、このSSCを利用したパンチであれば、どんな場面でも応用が利いて、パワーとスピードを出せます。
ボクシングの井上選手やパッキャオ選手なんかは、要所要所の攻撃にSSCをうまく使って、自分よりも体格が大きい選手に対してもKOを量産しています。
突き
例えば、刻み突きを出すという動作は「腕を伸ばす」ということです。つまり上腕三頭筋の収縮により肘関節が伸びます。上腕三頭筋の運動にSSCを取り入れるなら、まず思い浮かぶのが上腕二頭筋の収縮(肘の屈曲)ですから、腕を曲げてから突けばよいのです。
でも、それじゃバレちゃうっていうなら、こうしましょう。
肩関節の挙上による上腕三頭筋内側頭の伸展です。
実は上腕三頭筋はその名の通り、3つに分かれていて、そのうち長頭と呼ばれる部位は、3つの部位の中で唯一肘関節以外の関節との連動ができうる筋肉です。肩甲骨の下のほうにくっついています。さらに、上腕三頭筋は一つに合わさった後は、下端のほうで尺骨(腕にある2本の骨のうち小指側の骨)の上端(尺骨肘頭)にくっついています。骨とくっついている場所がわかれば、作用はなんとなく想像できますね。上腕三頭筋長頭は肩関節の伸展と内転に関わっています。
つまり、SSCを意識しつつ、肘関節の動きは作りたくないなら、「肩甲骨を内側に絞める・挙上させる」「腕を外側に回す」を予備動作として行えばよいのです。
ちなみに、突きを放ちっぱなしだと掴まれたりするリスクがありますし、競技空手では引手の速さが重要です。伸ばした腕を引くためのSSCは、さらに伸展させることです。これを実現する予備動作が拳の内旋です。だから、空手やボクシングは正拳(横拳)が良いとされるのかもしれません。
加えて
この議事では、目に見える現象からSSCを説明してみました。でも実は、筋肉の動きというのは、脳から抑制的な信号の加減で、制御されています。筋肉が動くときは、脳が「動けー」って命令してるんじゃなくて、「待機やめー」って言ってるんですね。
だから、SSCを自然に行おうと思えば、ある動作の前に、それと真逆の動作を一瞬だけ想像すると良いのです。
速く突こうとするなら、「速く突きを引く」
速く蹴ろうとするなら、「速く蹴り足を引く」
力を入れようとするなら、「脱力する」
こんな具合です。どうでしょう?道場で先生方が指導されるときの言葉になりますね。
SSCを動作に応用するには、目的の動作の反対の動作がどういうものなのかを理解しないといけません。さらに、理論武装したあとは実践です。皆で切磋琢磨しましょう!
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