武道に隠された、身体操作の科学的解釈をしていくと、先人たちの観察眼の鋭さに感服します。立ち方ひとつで重心の位置が変わり、技の出し方が変わります。
立つことは人間の基本動作の1つではありますが、あまりに自然にできすぎて、その意義を考えたことはないかと思います。
一緒に考えてみましょう。
立つときの重心
まず初めに、両足の親指と踵同士をそろえて立つ「閉塞立ち」、踵を中心につま先を開く「結び立ち」、両足が平行になる「平行立ち」の3つの立ち方における重心を考えてみます。
どの立ち方でも、身体の正中線上に重心があります。違いは、身体をずらした時の変化の様子が変わります。
やってみる
上体を左右に動かしてみる
3種類の立ち方で、身体を前後左右に動かしてみてください。
動ける範囲が違うことがわかりますか?
閉塞立ちと結び立ちでは、腰の幅に対して足の幅が狭くなりますから、左右に身体が動くと不安定になります。倒れないようにするためには、閉塞立ちでは左右方向の動きが制限されていたと思います。身体の重心が左右に変化するのを止めておくのに足の外側しか使えないからです。結び立ちでは左右に重心が動く際につま先を使って踏ん張ることができるのですが、足全体の向きが内を向いているので不安定です。
平行立ちの場合、左右の足がそれぞれ直立して骨盤を支えるのと、足の外側がつっぱているので、重心が両足と股関節のつくる三角形の中に納まるため、上体を左右に動かしても大変安定します。
しゃがんでみる
閉塞立ち、結び立ち、平行立ちの順でしゃがみ込みが深くできるか、あるいは、やりやすかったかと思います。
これは人間の骨盤の形が関係していて、骨盤(寛骨臼)では、身体に対して前方から大腿骨(大腿骨頭)が連結します。大腿骨頭からは大腿骨頸部という棒状の骨が伸びていて、その先に120度の角度をもって、本幹が内向きに伸びて膝関節に向かう形をしています。
見た目よりも大腿骨は内向きなのです。
大腿骨が身体のやや前方から骨盤に入ってきているため、膝の屈曲の際に大腿骨が内を向いていると、骨盤からすると関節の接続部分から外へ広がっていく方向なので、窮屈に感じます。
逆に、膝の屈曲方向と股関節での大腿骨のいち関係が平行から外向きであれば、制限がかかりにくくなります。
空手の騎馬立ちでも、ナイファンチ立ちでも、膝を外に張るようにと指導されるのはそのためです。
跳んでみる
これもしゃがんでみたときと同じような感覚ですよね。
跳ぶという動作は、足関節と膝関節、そして股関節での筋肉の伸張が必要ですから、各関節の動きが制限されないようにしないことが大切なのと、力の方向が垂直に向かないといけませんので、閉足立ちや結びたちだと大腿骨が内向きになっているので、効果的ではありません。平行立ちよりも、外側に開く立ち方でも、垂直方向への力が伝わりにくいということでもあります。
立ち方で安定感が変わる
これまでで、わかったように、立ち方で動きの制限がかわっていることが分かったと思います。安定感の違いとも言えますね。
大腿骨を外に開くほど、土台が安定するので、腰の動きなどを上半身に転化させやすくなります。
ただし、古流の動きでは腰の回転力で突くようなことはしません。むしろ、体重を拳に乗せるような力の伝え方をしますから、どちらかというと閉足立ちくらいに不安定な状態から身体の横方向へ体重をかけていき突きに威力を加えるような身体操作の方が自然かもしれません。
相手を投げるときも、空手では腰から上に持ち上げて投げるようなことはしません。騎馬立ちのようなどっしりとした構えから、腰の回転力で相手を投げるのではなく、自分の立ち位置をかえることで相手との回転軸を変えていき、自分の体重を回転力にします。(柔道でも一本背負いといいながら、腰に乗せずに、自分が下には潜り込むようにして、相手の重心を前方に移動させています)
立ち方一つで、重心が変わることがわかりました。どれがだめとかではなく、場面ごとに使い分けますから、それぞれの特徴を把握しておくことが大切です。では、失礼します。
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