神速の刻み突き

前回の記事で神速とは何かを説明しました(というか言葉をこねくり回しました)。中途半端に終わっているので、じゃあ、実際に神速の攻撃はどのように発生させればよいかを今回の記事で考えてみたいと思います。結論は一番最後に書いていますので、時間がなければそちらだけでもご覧ください。

刻み突きを届かせるための要素

まずは、下の図をご覧ください。刻み突きが相手に届くまでの模式図です。
想定としては、相手との距離(攻撃範囲)が1~1.5m、身長はお互いに170cm、肩から拳先70cm、胴体50cm、股下70~80cmです。神速で相手が反応できないと仮定するので、相手は動けないものとします。その場で突きを出した場合、身体が直立なら、相手の顔と自分の拳の距離は、30cm(1.0m-70cm)~80cm(1.5m-70cm)です。

刻み突きの模式図。

この距離を詰めるための要素として、身体の前傾により生まれる距離(a)と前足の移動による身体全体の移動距離(b)があります。aの距離は下の図のようになります。

身体の前傾角度による距離の違い

まとめると、

攻撃範囲=腕の長さ+前傾による移動距離(a)+前足の移動距離(b)
=腕の長さ+胴体の長さ×Sin(前傾角度θ)+前足の移動距離(b)
=70cm+50cm×Sinθ+b

前傾角度は頑張っても45度くらいが限度だと思います。それ以上だと、身体が相手の下にもぐってしまって、腕を肩よりも大きく上にあげないといけないため、ポイントは取れても、力強い攻撃になりえるか怪しいです。30度から45度の間として、前傾により生まれる距離は約30cmです。

神速のための要素

パンチ速度か?

前回の記事で神速とは反応できない速度のことで、人間の反応時間は0.2秒だとお伝えしました。パンチ速度は一流ボクサーで10m/秒です。半分の5m/秒としても、手の移動距離はたかだか50cmなので、構えから突きを出し切るまでの時間は0.1秒となり、0.2秒を大きく下回ります。

パンチの速度を上げることは神速の突きのための重要度は低そうです。

ちなみに、50cmの距離を移動する物体を目が認識できる限界の速さは8.4m/秒です。真横から見ても、8.4m/秒の速度のパンチは見えないということです。

足の速さか?

では、足りないのは身体の前傾の速度や足の速さなのでしょうか?

100m走の高校生男子の平均は14-15秒です。つまり、1mの移動に0.15秒しかかけていないことになります。もちろん初速は全体からみると遅めなので、最初の1mは0.3秒くらいかかっているのかしれません。しかし、空手の刻み突きでは1mも大きく足を送ることはしません(追い突きではやりますね)。間合いが1.5mとしても、必要な距離は50cmなので、足を前に出す時間は0.15秒になります。やはり、0.2秒に届きません。ちなみにオリンピック選手並みの選手でも0.1秒です。

前傾速度か?

突きの速度や足の速さは人並みで十分だということがわかりましたが、では、なぜ、多くの空手家が神速を出せないのか。最後に前傾速度が残りましたが、どうですかね。

直接身体の前傾速度は研究されていないので、学校でやる体力測定から、近似的に求めてみます。体力測定で前傾に関わりそうな運動は「上体起こし」です。腹筋で身体を起こすやつですね。測定時間30秒での高校生の平均は男子で約30回、女子で約25回です。上体起こしは寝た状態から90度身体を起こして1回なので、90度/1回/秒が平均的な速度ということになります。つまり、向きが違うかもしれませんが、前傾にかかる時間は45度で0.5秒、30度では0.33秒となります。

神速のためには腹筋が必要だった

細かく検証すると、神速のために最も努力しないといけないのは腹筋だったという結論にいたりました。言い換えれば、技の起こりが読まれる原因は体幹だという事です。例えば、前傾のために0.33秒かかった場合、相手の反応時間が0.2秒とすると、0.13秒の余裕があることになります。突きだけなら0.1秒で70cm、足を前に出すとしても、相手にとっては1足分くらい前に出せば届くので0.13秒を下回りますから、カウンターが成立してしまいます。

相手のカウンターが成立しないくらいの速度は、相手が反応して(0.2秒)から突きを出して自分に届くまでの時間(最長0.1秒、距離70cm)、つまり、0.3秒以内に自分の突きが届けばよいということになります。

この速度を出すための上体起こしの成績をY回/30秒とすると、

0.3秒=(30秒÷Y)×(前傾角度÷90度)
∴Y=30秒÷0.3秒×(前傾角度÷90度)
 =1.11×前傾角度

となります。45度なら約50回/30秒、30度なら33回/30秒です。

本当の神速

しかし、この記事で求めたいのは神速、つまり、反応できないくらいの速度です。

上の上体起こしの成績は0.3秒以内という緩い条件なので、本当に反応できないほどを目指すなら、0.2秒以内を目指すべきですので、

Y=30秒÷0.2秒×(前傾角度÷90度)
 =1.67×前傾角度

45度なら75回/30秒、30度なら50回/30秒です。

さらに、もっと大切なことがあります。なんとなく、お分かりかもしれません。これまでの説明は要素一つ一つの速度での検証です。実際の身体は1個で、腕も胴も足もつながっています。それぞれが、それなりの速度を持っていても、有機的なつながりがなければ、極論すればすべて足し算の結果になってしまいます。一流のボクサー並みのパンチ速度があって、上体起こし50回/30秒程度ができて、オリンピック選手並みの走力があったと仮定しても、

攻撃が届くまでの時間
=突きを出し切る時間+身体を傾ける時間+足を前に出す時間
=0.05秒+0.2秒+0.1秒
=0.35秒

ダメダメですね。確実に負けます。

本当に神速を求めるなら、0.2秒以内に完結しないといけません。すべての動きを完璧なタイミングで始動させることは難しいですが、逆に考えれば、最も時間がかかる身体の前傾を軸にして、パンチ速度や足の速さを極力上げていけば、動きだしのタイミングがそれぞれで多少ずれてもOKということになりそうです。


正直、書きながら答えがあるのか不安だったので、とりあえず腹筋が重要だったという答えが出てほっとしました。まぁ、ここまで書いといてなんですが、いくら畳の上で泳ぎ方を習っても、実際に泳げるようになるわけではありません。強くなりたければ、実戦(実践)あるのみで、「やってみて、考えて、またやってみる」を繰り返すしかないです。

YouTubeでは世界のトップ選手の戦いが山ほどアップされています。是非参考にして、理論的背景を考えてみたくなったら、この記事のように要素に分けて考えるといいかなと思います。

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投稿者: keisuikansagamihara

相模原市中央区の空手教室です。

神速の刻み突き」に13件のコメントがあります

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