筋力は考える力にもなる!?

以前の記事「運動と学力の関係」では、運動それ自体が学力とあまり関係しないのかもしれないとお伝えしました。ですが、やっぱりスポーツと学力は関係あるんじゃないかという信念で調べていくと、2021年に面白い研究が発表されていました。

Ludyga S. Autism Res, 2021. Muscle strength and executive function in children and adolescents with autism spectrum disorder.

Healthy Brain Networkコホートというのがあり、その中の、横断研究(調査時点での情報のみで関連性を評価する研究、因果関係は証明しがたい)で、自閉スペクトラム症(ASD,いわゆるアスペルガー症候群とか広範性発達障害とかが含まれた概念の疾患です)、筋力、肥満度と実行機能および情報処理との関連性が調査されました。概要は以下の通りです。

・5歳から18歳の自閉スペクトラム障害患者さん(174人)と健常者(202人)が対象
・実行機能と情報処理の中核要素は認知課題(パターン比較、フランカー、リスト並べ替え、カード並べ替え)で評価されていました。
・体格測定と筋力測定は腕立て伏せ、カールアップ、体幹挙上、握力が測定されました。

結果をまとめると、年齢、性別、思春期かどうか、社会経済的地位などとは別に、健常者と比較して自閉症スペクトラム障害では筋力低下と実行機能の低下があったそうです。また、筋力は、情報処理機能と実行機能に寄与していたとのことでしたが、自閉スペクトラム症患者に限ってのことかもしれないようでした。

研究結果は、「筋力を高めることで、子どもや青年の情報処理能力を向上させ、自閉スペクトラム症に関連する実行機能障害を軽減できる可能性がある」ことを示しています。

健常者の中では筋力と情報処理能力や実行機能との関連が見いだされていないので、この結果を以て、「みんな筋トレすればより賢くなるぜ」というまさに脳筋的結論にはなりません。しかし、自閉スペクトラム症というのは、スペクトラムという言葉が示す通り、性格や能力の一続きの連続的なバリエーションの中での、社会生活上困難が生じやすい部類の人たちというだけなので、健常(と分類される)人の中でも筋力と情報処理の関係が生じていないとも言えないと思います。(実際、統計的解釈でもそうなります)


いかがでしたでしょうか?皆さんはどう思いますか?それにしても、5歳児は腕立て伏せやカールアップなんてできるのでしょうか?調査時の映像も見てみたいような気になりました。
余談ですが、本当に筋力と学力の関係を調べたければ、「大学入試で多くの人が受けるであろう共通試験の最終日に体力測定をしてもらって、それぞれの成績を比べるか、高校3年春時点で同程度の学力の人を集めて、体力測定をしておいて、その後の学力の伸びを調べればいいのかな?面白そうだな」なんて妄想していました。

最後に医師として、これだけは言わせてください。
自閉症というのは、脳の特性で引き起こされるこだわりの強さや対人関係の難しさで生活上の困難が生じている方のことを指します。でも、人間なら誰しも、自閉症という診断がなくても、マニアックなこだわりがあったり、意地悪を言ってしまったり、寂しがりやだったりと、いろいろな特性がありますよね?そういった、人それぞれの特性を認め合ってあげられる人間性(「かわいそうな人だな、しょうがないな」じゃなくて、「こういう人なんだな、じゃあこういう声かけや対応をすればうまくいくかな」というような建設的なもの)を多くの人がもてば、自閉症の人だけじゃなく、みんなが過ごしやすい社会になるのになと、願ってやみません。これは、友人関係、夫婦関係、認知症患者さんや高次脳機能障害患者さんとの関係など、コミュニケーションに関連したすべての問題に対する共通の課題と思っています。

広告

投稿者: keisuikansagamihara

相模原市中央区の空手教室です。

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。