相手にわかりにくい攻撃は有利に戦いをすすめる大事な要因です。この記事では、相手に放たれた突きを脳がどのように認知するかを解説します。
物の見え方
人の眼というのは大変精巧にできていて、2つの眼で空間を見ることで、立体感を認識することができます。これを立体視といいます。近くのものほど立体感をとらえやすいのですが、これは中学の理科でやる凸レンズの焦点距離で説明ができます。

だいたい、焦点距離の2倍のところで同じくらいの大きさに認識され、遠くにいるほど像は小さくなり、近くになるほど大きな像になって、次第に像が結ばれにくくなります。人の焦点距離は目の水晶体と角膜の厚さに依存するのですが、だいたい16mm程度です。なので、像が結ばれないほどの短距離は3cm以内となりますので、実際の戦いで見えなくなるほどの距離に到達していたらほぼ当たっています。
組手の構えでは、人の身体の前に拳がありますが、相手と自分の空間の中で、中間くらいにある拳は相手と同じくらいに見えていると思います。
そこで突きが放たれたときに、それがどのように見えるか。

上の図で分かるように、遠くの大きいものと近くの小さいものはほとんど同じくらいの大きさに見えているからです。体に対して、拳はとても小さいです。その拳が自分に向かってくるとき、脳は拳の大きさの変化はほとんど感じられていないと思います。そうであるなら、突きを放たれた自分が何に対して、反応するかというと、拳ではなく、より大きく見える物体である身体か、拳のぶれではないでしょうか?
ただし、これは片目での見え方です。人の眼は2つあり、この2つの眼の見え方の違いを脳が処理して、より詳細な距離感として認識されます。
この距離感を騙すには、左右の目にとって、「本当は近づいているのに大きさが変わらないように見える」見え方をさせるとよいので、例えば、
「両目にとって正中線上を真っ直ぐに相手に向かっていく」
と始めの図と同じ状態に持ち込めます。
技のおこりを察知されないようにするためには、変化が小さいようにすればいいので、突きであれば、
「拳から相手にむかっていって、拳の大きさの変化を認知させてから、いっきに拳との位置関係を保ちながら身体を移動させる」
よって、2つを合わせると、
「相手の両眼の中央の線に沿って、拳を真っ直ぐに放ち、その後、同じ線上にそって身体の向きや高さを極力保ちつつ寄せる」
と、おこりが分かりづらく、移動も認知されにくい突きになります。
昔の空手の先生の説明って時に「そういうもの」みたいな説明だったり、「シュっとついて、身体をパッとする」みたいな感覚的な説明が多かったような気がしたので、考察してみました。
なんだかんだ、理屈をこねて、当たり前の結論となりました。しかし、それこそが、空手が合理的な武術体系と言われる理由の1つかもしれません。
指導で、「肩の高さを変えるな」とか「平行移動するように」なんて言われた事がありました。身長がほぼ同じであれば、それが有効かもしれませんが、背が高い相手の場合は、斜めに身体を移動させた方が、良いのかなと、考察していて思いました。
空手の科学的考察など、教えて下さる親切な方お待ちしております。
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